アントシアニンについて

アントシアニンとはアミノ酸の一つであるフェニルアラニンを出発物質とした代謝経路で合成される、フラボノイドの一種となります。

アントシアニン生合成経路では、アントシアニンの基本骨格となるアントシアニジンが合成されます。続いて、糖や有機酸がアントシアニジンに結合することで、アントシアニンと呼ばれる色素物質となります。このため、アントシアニンとはアントシアニジンが糖や有機酸で修飾された構造の総称であり、多様な構造が存在しています。アントシアニンはアントシアニジンよりも構造的に安定しており、通常は植物体内ではアントシアニンの形で蓄積しています。

みなさんに馴染みの深いアントシアニンだと、秋の紅葉があります。この鮮やかな赤はアントシアニジンの3位が糖で修飾された比較的単純な構造により発色しています。

一方で、デルフィニウム、リンドウ、アサガオなどはとても複雑な構造のアントシアニンが蓄積しています。

下の写真はデルフィニウムとそのアントシアニンであるシアノデルフィンの構造です。

アントシアニンへの糖や有機酸の修飾は構造を安定的にするだけでなく、色調に深みを帯びることも知られています。このため、複雑に修飾されたアントシアニンをもつ植物の色は、言い表わすのが難しい、魅惑的な色合いを呈しています。

また、アントシアニンの特徴としてpH条件により色合いが変わる性質があげられます。理科の授業で紫キャベツを使った色の変化を確認した経験があるのではないでしょうか?他に身近な例では、マロウティーなどで使われるチョウマメのアントシアニンもあります。マロウティーでは抽出時は青いお茶ですが、レモンを入れると紫色に変化します。紫キャベツもチョウマメもアントシアニンの構造は複雑であり、単純な構造のアントシアニンだとすぐに分解してしまうようなpH条件でも、色の変化を楽しむことができます。

ただ、実はpHの変化がなくてもアントシアニンは構造によって大きく色合いが異なります。

アントシアニンの基本骨格であるアントシアニジンには代表的な構造が3つあります。ペラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジンと呼ばれています。B環と呼ばれる構造の部位の水酸基の数が1つ、2つ、3つと変わるだけなのですが、それぞれのアントシアニジン由来の色合いは大きく変わります。

青い色の植物にはデルフィニジンを由来とするアントシアニンが蓄積しており、はっきりとした明るい赤い色の植物にはペラルゴニジンを由来とするアントシアニン、朱色から赤紫色の植物にはシアニジン由来のアントシアニンが蓄積しています。また、黒に見えるような植物の場合はシアニジン由来のアントシアニンがあることが多いです。身近な例だと、ナスやブルーベリーがデルフィニジン、ブラックキャロットや紫キャベツがシアニジン、イチゴや赤かぶがペラルゴニジン由来のアントシアニンを持ちます(複数のアントシアニジン由来の構造をもつ例も多くあります)。

赤色にはアントシアニンとは異なる色素物質である、ベタレインやカロテノイドなどもあります。例えば、ほうれん草やビーツの赤はベタレイン、トマトや京人参の赤みはカロテノイドになります。一見した色だけではどの色素物質であるのか判断が難しいですが、その植物の属が分かると判断できる場合もあります。